63℃――
太田市民であれば、なんとなく見覚えのある字面でしょうか。
太田市新田市野井町にある、東毛酪農。「学校給食の牛乳だ!」と思いだす方も多いかもしれません。「63℃」は、この東毛酪農さんの牛乳の商品名。なぜ63℃……?東毛酪農業協同組合さんに伺って気になる真相を確認してみたら、なんとも奥が深い牛乳の世界があったのです。
こだわりの「低温殺菌牛乳」
牛乳になる前の段階、酪農家さんから仕入れる原料乳は、加熱・殺菌をする必要があります。食品衛生法上、原料乳の細菌数は400万/ml以下、牛乳の細菌数は5万/ml以下と定められているのです。「うちの原料乳の細菌数は、1万/ml以下。はるかに少ないでしょ。酪農家さんが頑張ってくれているおかげ」と、大久保さん。もともとの細菌数が少ないため、低温殺菌処理でおいしい牛乳をつくれるのです。
「市場に出回っている牛乳の成分表を見てごらん。殺菌の温度と時間が書いてあるから。おそらく、一般家庭が購入している牛乳のほとんどは、130℃で2秒などの超高温殺菌のもの。そうすると、独特のへんなにおいが出ちゃうんだよ」と、大久保さんは言います。
スーパーなどで安く売られている牛乳は、生乳以外の成分が混ざっている「加工乳」であったり、先述のような「超高温殺菌牛乳」であったりすることがほとんど。加熱の温度が高ければ高いほど殺菌力は強くなるけれど、そのぶん子どもたちが苦手とする「牛乳のへんなにおい」が出やすくなってしまいます。そのため、東毛酪農で出す学校給食用の牛乳は、75℃で15秒殺菌した「低温殺菌牛乳」にこだわっているのです。
生クリームが浮かぶ牛乳「63℃」
さらに、細菌を殺しやすくするためには圧力をかける必要があります。その圧力(ホモジナイズ)によって、牛乳のうま味となる脂肪球をつぶしてしまうのだそうです。
「この“63℃”っていう商品は、63℃で30分加熱殺菌してるの。しかも、ノンホモジナイズド。だからへんなにおいもないし、さらっと飲みやすい。放っておくと、表面にクリームラインができるんだよ。これが、良質な脂肪球さ。」
この低温殺菌牛乳は「みんなの牛乳」として昭和58年から商品化され、国内では低温殺菌牛乳の先駆けとして注目されてきました。なんでも、超高温殺菌牛乳が主流なのは日本や韓国くらいで、欧米などでは低温殺菌牛乳が当たり前なのだとか。
そしてこの低温殺菌牛乳は「63℃」としてリブランディングされ、東京スカイツリー内にあるショッピングモール「東京ソラマチ」内にソフトクリーム専門店を出店。東毛酪農こだわりの牛乳を使ったソフトクリームが、県外の、そして国外の方々にも楽しんでいただけるようになりました。今年の春に行われた「東京ソラマチアイスクリーム総選挙2017」では、見事2位になったほどの人気ぶりです。
太田市から日本一の牛乳を
超高温殺菌牛乳と低温殺菌牛乳の、飲み比べをさせてもらいました。するとびっくり、まったく違う!超高温殺菌牛乳は、普段からなじみのある「牛乳特有のにおい」であるのに対し、低温殺菌牛乳はほぼ無臭。飲んでみると、超高温殺菌牛乳は特有の後味が残るのに対し、低温殺菌牛乳はかすかな甘みを感じるだけで、すっと喉に入っていきます。
「ね、全然違うでしょ? しかも“63℃”って、“ムサシ”って読めるんだよ。すごいよね、後から気付いたんだけどさ。いくつになっても変なことを思いつくんさね~。」と笑う、大久保さん。
「牛乳って、それだけでたくさんの栄養分がとれる素晴らしい機能性飲料。なのにその価値が軽視されていって、どんどん安くなるし、海外産の商品に押されるし、酪農家さんの跡取りもいなくなっていくし……。でも、日本一の牛乳をつくっている自信はあるんさね。」
そう語る大久保さんの表情はそれまでとは一変し、とても真剣。日本の未来と、未来の子どもたちのことをじっと見据えているような表情が印象的でした。
こんなに子どもたちのことを想った地元の牛乳を毎日飲めるなんて、群馬の子どもたちは幸せだな――それが、率直な感想。東毛酪農の志が、これからもきっと子どもたちの健康と成長を見守っていくのでしょう。
(ライター:岩﨑未来)
「東毛酪農低温殺菌牛乳63℃」を使用したソフトクリームがキタノスミスコーヒーで食べれます!
東毛酪農業協同組合
住所 群馬県太田市新田市野井町741-1
電話 0276(57)0111