「変わらない為に変えていく」。太田で唯一の日本酒をつくる島岡酒造は、造り手の”こだわり”と”愛”にあふれていた

例幣使街道を宝泉から太田市内に向かう丁度、中間地点。車で走るには少し狭いと感じる道路だが、この道を起点に文化や経済が繁栄していったことを考えると、なんだか趣き深い。そんな場所に今回取材をした「島岡酒造」がある。酒蔵の名前を知らなくても、「群馬泉」と言えばピンとくる方が多いかもしれない。そう、あの有名な群馬泉をつくっている酒蔵が島岡酒造なのだ。今回は、太田市で唯一残る酒蔵として、変わらない“味”と“酒造り”で県内外からもファンの多い酒蔵の6代目杜氏 島岡利宣さんにお話を伺いました。

 

 創業1863年。150年以上続く、歴史ある酒蔵「島岡酒造」について

—  島岡酒造の歴史について教えて下さい。

 

創業は文久3年、西暦でいうと1863年にスタートしています。僕の代で6代目になる酒蔵です。

 

—  150年以上も前からやっているんですね!ずっと太田(宝泉)でやってきているのでしょうか?

 

そうですね。昔って、造ったお酒を流通させる機能が発達していなかったので、酒蔵は「水が良い場所」「人がいる場所」にあるのが基本だったんです。

そして、この辺りは赤城山系の伏流水が湧いてくるエリアで、近隣にも沢山の井戸があるなど、水に恵まれている地域なんです。実際、ウチの敷地内にも3箇所井戸があって、酒造りとしても、生活用水としても、今でも現役で活躍してくれています。

 

—  へえ!言われてみれば、地名も「宝」の「泉」で宝泉ですもんね。水によっても、味に変化や特徴って出るものなのでしょうか?

 

このエリアから湧き出る水は、比較的「硬度が高い」ことが特徴として上げられていて、硬度の高い水でつくる日本酒は「しっかりとした味わい」が出ることが特徴ですね。

 

 同業者もわざわざ見学にくる!?島岡酒造のちょっと変わった酒造り

—  島岡酒造が造るお酒の特徴についても教えて下さい。

 

ウチは他の酒蔵と比べたら相当変わっている蔵で・・

まず使うお米は基本的に群馬県産を使っているのと、ちょっとマニアックな話になりますが「山廃(ヤマハイ)」という製法で日本酒を造っているんです。

 

—  ヤマハイ、、ですか?

 

そうです。昔から続く製法なのですが、その造り方をそのまま現在もやっていて、通常はやっている蔵でも一シーズンに1タンク造るくらいの手間のかかる製法を、ウチはほとんど全てそれで造っています。

 

・地元の米しか使わない

・酒造りの製法は「山廃」

 

この2つのファクターで日本酒を造っている蔵は、日本でも数少ない思います。

更に、レギュラー品で出している日本酒(群馬泉)は、大体1-2年寝かせてから外に出してるんです。

 

—  日本酒って、出来たら直ぐ出すものじゃないんですか?

 

勿論、季節品で新酒として出す商品も一部ありますよ!

通常は、冬場に仕込んだものを春先に新酒として出して、また冬に仕込んで・・というのが酒蔵の一サイクルなんですけど、ウチがメインで出しているお酒は、1-2年間蔵の中のタンクで寝かせて、飲み頃を見極めてから瓶に詰めて出しています。

 

—  お金になるまで時間かかっちゃいますね。

 

酒造りは、お米を先に買うので、本来ならお酒を売り出すタイミングで回収するので、その期間が早いのが普通なんですよね。

全国で0とは言わないですが、あんまりやっているところは多くないと思います。味がのってこなければ、3年寝かすこともありますし・・酒好きの趣味の酒造りみたいなことをしている蔵なんです(笑)なので、同業者が蔵を見学にくることが、とっても多いんですよ。

 

—  確かに。それは皆んな気になりそうですね。

 

でも「経営」の立場で見たとき、この造り方でやるのは全然参考にならないんですけどね(笑)

 

—  一同:(笑)

 

 「お袋がつくる味噌汁を出すような感覚」。変わらない為に変えていく酒造りを意識する6代目としての想い

—  群馬のお酒造りの現状に関しても伺いたいんですけど、全盛期ってどれくらいの酒蔵が県内にはあったのでしょうか?

 

昭和40年には、65社の酒造メーカーが県内にあったと言われていますが、現在は20社まで減ってきています。太田市内の話をすれば、蔵を持ってお酒を造っているのは、現在ではウチだけですね。

 

—  6代目として杜氏になった過程も伺いたいのですが、すぐ就職せずに継がれたのですか?

 

いや、最初は都内でサラリーマンをしていました。正直な話、ちょっと・・嫌だったんですよ(笑)

 

—  あ、嫌だったんですね(笑)

 

嫌・・というか、なんでしょうね。

最初は遊び感覚でしたが、小さい頃からずっと酒造りを生活の一部としてやってきたので、【(ちょっと違うことも経験したい)という感情で外に出た】という方が正しいかもしれないですね。

 

—  やっぱり、小さい頃から「この酒蔵を継ぐんだ」みたいな意識があったのでしょうか?

 

何となくですけど、むちゃくちゃありましたね。

まあ、だからなんでしょうね。分かってるからこそ、違うことをしたい!みたいな(笑)

 

—  なるほど!そこには「150年の歴史」や「6代目として・・」といった重圧なども感じていたのでしょうか?

 

いや、正直あんまり無かったですね(笑)

特にウチは、家族+αくらいの規模でやっている酒蔵なので、これがもっと従業員を抱える酒蔵だとまた違ったんでしょうが、そういった重圧は無かったですね。

 

それより、毎年飲んでくれるお客さんに納得する味が提供出来るか?というプレッシャーの方が大きかったです。

 

—  お話を聞いていると島岡さんは、歴代の製法やスタイルに敬意を払って、それを守ることを貫いている印象を受けるのですが、流行りの日本酒を飲んだり、技術を知って、それを現場でやってみたい!と考えることって無かったんですか?

 

最初は、正直ありました。だけど、何なんでしょうね・・

小さい頃から当たり前にウチの日本酒が身近にあったので、僕にとっては「お袋が作る味噌汁」と近い様な感覚で、それっていつの日か馴染みの味になっているんですよね。

 

外で色んな物を試せば試すほど、自分には、(ウチに代々ある、この味を洗練させる方が良いんじゃないか?)って思う様になってきたんですよね。今はそれを守っていきたいんです。

 

なので、基本的なスタイルは全く変えてはいないんですけど、米の洗い方・温度管理・絞り方など、『変わらない為に変えていく』小さな変化は今でも毎年少しずつしています。

 

—  歴史と共に、ご自身の想い出も詰まっている味になっているということですね。。酒蔵としては、これからどんな蔵になっていきたいと考えているのでしょうか?

 

現在では、その年の(お酒の)出来が良ければ売れちゃう、なんてことも実際はありますが・・

本来、日本酒って「その年に良いお酒が出来た」で終わりではなく、それを継続していく、長いスパンの商品だと思うんです。そして、自分自身が魅力を感じる酒蔵は、そこの蔵の主人や杜氏に「こういう酒が造りたい」という想いがあって、その想いがのった酒や、ブレない軸を感じる酒が見ていて、(カッコいいなあ)と思うので、自分もそういう蔵になっていきたいですね。

 

 これからの季節にオススメ!島岡酒造オススメの日本酒を紹介

—  最後にこれからの季節にオススメな島岡酒造のお酒などもあれば教えて下さい。

 

2月までは「初しぼり」という新酒が出せていると思います。

初しぼりは、ここから火入れをしてレギュラー酒になっていく前の状態のお酒なので、まだ米の生命力を感じるお酒となっているのが特徴です。沈殿している酵母が、まだ生きているので開栓してから毎日味の変化が楽しめる、明るい・楽しいお酒です。

 

そして4月頭の春先には、「淡緑(うすみどり)」という商品が出ます。これは地元の農家さんが作ってくれている“若水”という酒米を使った新酒になるんですが、このお酒は皇室の関係者さんも気に入ってくれているお酒で、群馬にいらした時に関係者の方が購入してくださっているんです。ウチで出すお酒は基本的に寝かしたものを出しているので、新酒は数が少ないので是非見つけたら飲んでみてください!

 

 編集後記

普段なんとなく通り過ぎている市内の街道沿いには、長い歴史と、それを引き継ぐ造り手の熱い思いがありました。蔵の歴史を感じさせる店内では、古くから伝わる酒造の道具なども見ることができます。時間によっては、杜氏自ら接客してくれることも。気になっていた方は、ぜひ島岡酒造に立ち寄ってみてください!

 

お店の情報:島岡酒造株式会社

2019.03.09_09:37|カテゴリー:HUMAN

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