“工業のまち おおた”だから実現できた、デザイン+ものづくりの結晶。

 

【『建築技術』誌のご厚意により、エーアイラボオオタで寄稿した記事を再掲載いたします】

 

再掲載にあたり

当サイト「alt+ota(オルトオオタ)」を主催する、エーアイラボオオタは太田市内の製造業者のなかで、建築、アート、カルチャーなどに興味のある仲間で自然に生まれたグループです。結成のきっかけは、「ものづくりのまち おおた」を、もっと面白く、楽しく、かっこよく伝えたい。という思いです。
2016年、太田市美術館・図書館の館内家具製作のコンペに応募し、結果選んでいただき、実際に制作を担当させてもらいました。

自動車産業を中心とした”工業のまち おおた”のものづくりは、多種多様です。「自動車は製造技術のデパートメント」と言うように、あらゆる工業的技術が重なり合って形づくられます。そのひとつひとつのパーツを作っている数百の会社が太田市には存在しています。全国でもこの様なまちはほとんどありません。自動車産業だけではありません。家電、建機などほかにも様々な産業の技術がこのまちには積み重なっています。

その1社1社の技術は実はすごいものなのですが、1つ1つのパーツを作っている技術の、その「すごさ」はなかなか説明しずらく、ましてや、製造業に関わっていない多くの市民のみなさんへはなかなか伝わりづらいものです。

わかると実は面白いものですが、エーアイラボはそれがすこし歯がゆくて、モヤモヤしていました(おそらく、農業だって、ほかの産業だってそうだと思います)。

その”工業のまち おおた”のものづくり技術を、もっと面白く、楽しく、かっこよく伝えたい。というエーアイラボの思いが、太田市美術館・図書館の家具には込められています。

そして、この太田市美術館・図書館の家具をみて、「太田市のものづくりって、すごいな」とすこしでも気づいてもらえたらうれしいです。ソファーや家具を使ってくれた学生や子供達が、少しでも、「素敵だな」「かっこいいな」と頭の片隅の記憶に残ってくれればと思っています。そして、いつの日か未来のエンジニアやプロダクトデザイナーがこのまちから育ってくれる、ちょっとしたきっかけになればというな大きな野望も込めて、家具の制作にあたりました。

本記事は、太田市美術館・図書館内家具制作をおこなう際にエーアイラボのプロダクトマネージャ亀井伸之が考えたことを、建築専門雑誌「建築技術」に寄稿したものです。株式会社建築技術さんのご厚意によりalt+ota上で再掲載させていただきます!

専門誌に寄稿した内容ですが、わかると面白いので読んでみて下さい。建築って知れば知るほど面白いものです。建築と家具の関係も考えたらとても面白いものだとわかってもらえるはずです。

「こんなこと考えながら、この館内のソファーや家具が作られているんだ。」「なるほど、この建築(丘)に、家具(植物)が”生える”ということか」と、思いを感じてもらい、もう一度、家具をみたり、ソファーに座リ直してみてもらえれば幸いです。その瞬間、そんなあなたも建築を構成する大事な1つのパーツだということに気付くかもしれません。

(追記)
去る2018年3月29日、第31回村野藤吾賞が発表されました。村野藤吾賞は「日本現代建築に多大な功績を残した建築家・村野藤吾を記念し、建築界に感銘を与えた建築作品を設計した建築家を毎年ひとり選んで与える賞」です(公式ホームページより)。
その栄えある賞を、平田晃久さんが受賞され、受賞作品として太田市美術館・図書館が選ばれました!微力ながら私達も関わりを持たせてもらえたことを有り難く思います。関係者みなさまおめでとうございます!

 


↓ 以下建築技術掲載記事です。↓


 

「自動車部品製造技術で建築家のデザインを具現化する」

 

私たちエーアイラボオオタは、自動車技術の集積する企業城下町群馬県太田市に位置する。自動車技術の粋を集めてアーティストのアイデアを具現化したらどうなるかを主眼として設立された、ものづくり企業集団である。自動車技術は、おおよそ存在する工業技術がふんだんに使われている。私たちの役割は、色々な技術メニューからデザイナーが表現したいことを推察し、提案を行い、議論を重ねながら完成形に近づけていくことである。本プロジェクトでは、平田晃久氏の設計した太田市美術館・図書館に設置する平田氏デザインの館内家具を製作することとなった。

 

・意匠解釈

まず、平田晃久氏の過去の作品と著作からデザイン思想を読み取ることとした。平田氏の作品には、あらゆる生命や自然に対する畏敬の念が感じられ、選定された土地に有機的な建築を出現させるスタイルをとっていることがわかった。自分のこだわりのデザインテンプレートのいくつかを選んで、切り取って土地に押し付けるのではなく、土地と対話を重ねながらその土地にふさわしい新たな建築生命体を生み出している。建物を建てるのではなく、建物を生やすといってもいい。この傾向は家具などの備品にも適用されている。

本建物は、駅前に出現した小高い丘を彷彿とさせ、太田市のシンボルである金山へとつながるランドマーク的存在である。館内家具においてはその連続体として、丘に生える植物、苔、菌糸、岩のような存在として位置していると感じられた。

 

・ソファ表現技術

ソファは、分子構造というロジカルで厳密な結晶構造が重なり合い、自然の造形物としてのアシンメトリックな生命体を表現するデザインである。

ジュラルミン製の14面体のジョイントを中心に各ジョイントに向けてジュラルミン製の丸棒を多段でつなぎ、苔のような形状のソファとなった。材料選定であるが、メンテナンス性を考慮し、重量がスチール材の1/3かつ錆びにくいアルミ材を候補とした。デザインとして極力、ジョイントおよび丸棒は軽やかに小さく細くしたいとのことから、アルミ材の中でも高耐力材のジュラルミン材を選定した。さらに表面処理を行わないことで自然のままの粗野な感じを表現できた。また、コストダウンと組付けのしやすさを考慮し、ジョイント部は2種類、丸棒はわずか数種類のデザインとした。

通常のベンチやソファは複数人が一方向に視線を合わせ、見る方向性を共有するため他人同士であると心理的に座りにくい印象を持つ。しかし今回のソファは、視線が周方向にランダム発散しているため、たとえ他人同士であっても、隣に座ることに違和感がない。実際に館がオープンしてみると思惑通り、他人同士が隣り合って座りソファに集う様子が見て取れた。

 

・ランプシェード表現技術

ソファと同じ文脈でつくられたのが閲覧室内のランプシェードである。こちらは分子構造が重なり合い、丘に浮かぶ霧や霞のような存在感を醸す。

霧や霞のような流動性を表現するためにジョイント間の丸棒を長くし、見た目の印象を軽やかにした。様々な角度から荷重を受けるソファのような動荷重体ではなく、ランプシェードは天井から釣り下がっている静荷重体であるため問題ないとした。

 

・デスク脚

2本の異なるスプライン曲線が重なり合ったデザインである。接合は人工的なジョイント材を嫌ったため、丸棒曲げ技術と点溶接技術にて表現した。

 

・ショップ陳列什器

角パイプで構成される什器を柱スパン間に浮かぶように取り付けたいとのことであった。やはり柱との接合は見えないようにとの難題であったが、接合部材を角パイプ内に収納することで柱間に浮かんでいるような陳列什器を表現できた。

 

・おわりに

一見高コストに感じる有機的デザインも微分してみると均整のとれた1つのユニット構造傾向が見て取れ、そのユニットをさらに二回微分すると単純な加工しやすい数点のパーツで構成されていることに気付く。結果的にデザイン性を考慮した有機的表現と工業性を考慮した低コスト家具を実現できた。

(亀井伸之 / 株式会社エーアイラボオオタ)

 


 

 

↑建築技術掲載記事ダウンロード(PDF/2.8MB)

 

 


 

併せてこちらの記事もどうぞ。

 

太田をリデザインするものづくり集団――『エーアイラボオオタ』 ~前編~

太田をリデザインするものづくり集団――『エーアイラボオオタ』 ~後編~

 

2018.04.13_11:48|カテゴリー:COMPANY FAB

Comments are closed.


Trackback URL


alt+ota〔オルトオオタ〕

Copyright © alt+ota All Rights Reserved.

ページの上部へ↑